こいのはなし

 しばらくまえに、あるお知りあい(おたがいのことを本当に知りあっているかについてはぎもんがのこる)の人が、「こいのすばらしさ」について、てつをもとかさんばかりにあつくかたっていた。ぼくは、この人はさかなを食べるのがすごいすきなんだなぁと思って(ふつうはそう思うはず)、「コイのあじはあんまりおぼえてないけど、ぼくはヒラメのえんがわがいちばんすきだ」とまけずに声をはりあげたのだけれども、どうもはなしがかみあわないようだったので、いろいろきいてみることにした。すると、なんとなんと、どうやらここでいうこいとはたべもののことではないらしいのである!みんなもびっくりしただろうけどぼくもきいた時はもうなにもしんじられなくなるくらいおどろいた。しんこきゅうをしておちついてから、ではこいとは一体なんなのか、さらにくわしくたずねてみると、こいをするとむねがときめくのだという。しかもそれは、おいしそうなお肉を目のまえにしたときのドキドキかんを、さらに上まわるほどのものだというのだ!それはすごい。お肉のだんかいですでにしっきんすれすれなのに、さらにそれより上となったらオムツをあてねばならないだろう。ぼくもそのこいをなんとか手にいれてみたい。(もちろんオムツをじゅんびしたうえでだ。)いったいそれはどこで売っているのか。あまっているようならもらえないのか。ブヨンという音とともにみをのりだしてそうたずねると、こいとかあいなんてのは、かったり人からもらったりするものではなく、きがつけばそこにあるものだというのだ。どこかできいたことがあるようなきもするが、それはともかくとして、まさかそんなものがこの世にそんざいしたとは思いもよらなかったので、ふかくにも今の今までまったくちゅういをはらっていなかった。あわててまわりをいろいろみわたしたり、きおくをほりおこしたりしてみたところ、このあいだふときづくとゴミがへやにいっぱいあったことをおもいだしたので、いまはあれがそうなのではないかとあやしんでいる。(つづく)